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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第2章 第一話-其の弐-

喜六郎ののんびりとした声に今は救われる想いだった。喜六郎の言う日本橋とは、愛娘小巻の嫁ぎ先のことを指すのだ。喜六郎は娘可愛さのあまり、時折、嫁ぎ先の仏具屋を覗きにゆき、娘の姿を遠目に拝んでくるのである。こんな天気の中をわざわざとも思うが、そこは親心というものだろう。
「こっそり覗いてるつもりだったんだが、うっかり向こうの偉兵衛さんと出くわしてねえ、ま、丁度雨も降ってきたところだったもんで、お邪魔してお茶を頂いていたら、こんな時間になっちまったよ。小巻がどうやら懐妊したらしい」
偉兵衛というのは、小巻の良人である。美人の小巻と並ぶと夫婦雛のようだと評されるほどの美男で、小巻に夢中である。それがまた小巻の気随気儘を増長させ、嫁いで殊勝になるどころか、益々手が付けられなくなった感がある。お彩も何度か逢ったことがあるけれど、これがまた鼻持ちならぬ増上慢な女であった。世の中はすべて自分の思いどおりにゆくと信じ込んでいる女である。
「こっそり覗いてるつもりだったんだが、うっかり向こうの偉兵衛さんと出くわしてねえ、ま、丁度雨も降ってきたところだったもんで、お邪魔してお茶を頂いていたら、こんな時間になっちまったよ。小巻がどうやら懐妊したらしい」
偉兵衛というのは、小巻の良人である。美人の小巻と並ぶと夫婦雛のようだと評されるほどの美男で、小巻に夢中である。それがまた小巻の気随気儘を増長させ、嫁いで殊勝になるどころか、益々手が付けられなくなった感がある。お彩も何度か逢ったことがあるけれど、これがまた鼻持ちならぬ増上慢な女であった。世の中はすべて自分の思いどおりにゆくと信じ込んでいる女である。

