この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第13章 第五話 【夏霧】 其の弐

流石に、これだけの深い霧では夏の朝とはいえ、少しひんやりしている。
お彩が白い靄の向こうに眼を凝らしていると、橋の向こう、町人町の方から足早に近づいてくる二つの人影が認められた。大人と子どもらしく、小さな影と黒い影が寄り添い合うようにして歩いてくる。人影は白い霧をかき分けるようにして進み、次第にその輪郭を明確にした。
やがて、白い幕の中からひと組の母子が姿を現した時、お彩は傍らの喜六郎を前に押し出した。
「旦那さん、しっかりして下さいよ」
お彩が小声で励ますと、喜六郎はカタカタと歯を鳴らしながら、ゆっくりと前に歩みだした。喜六郎が歯を鳴らしているのは、何も寒さだけではない。恐らくは武者震いのようなものだろう。
お彩が白い靄の向こうに眼を凝らしていると、橋の向こう、町人町の方から足早に近づいてくる二つの人影が認められた。大人と子どもらしく、小さな影と黒い影が寄り添い合うようにして歩いてくる。人影は白い霧をかき分けるようにして進み、次第にその輪郭を明確にした。
やがて、白い幕の中からひと組の母子が姿を現した時、お彩は傍らの喜六郎を前に押し出した。
「旦那さん、しっかりして下さいよ」
お彩が小声で励ますと、喜六郎はカタカタと歯を鳴らしながら、ゆっくりと前に歩みだした。喜六郎が歯を鳴らしているのは、何も寒さだけではない。恐らくは武者震いのようなものだろう。

