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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第13章 第五話 【夏霧】 其の弐

おきみは「花がすみ」から姿を消した後、江戸を逃げるように去った。再び宿場町に戻り、飯盛女をして糊口を凌いでいた。町に戻ったばかりの頃、旅の男と一夜を共にした。ゆきずりの関係であることは判りきっていたけれど、優しい気遣いを示してくれた。
「その人にとっては何ということはないことだったかもしれないけど、飯盛女を買うような連中は皆、女を使い捨ての道具のように扱います。でも、その男は違った。珍しくあたしを一人の女として扱ってくれたんです。たとえ上辺だけでも、優しい言葉をかけてくれました。馬鹿なようですけど、あたしはそれが嬉しかったんですよ」
おきみは再び視線を川の流れに戻す。
夏の昼下がりの川がぎらぎらとした陽差しに鈍く光っていた。先刻の涼風が嘘のように、川面を渡る風はそよとも吹かない。
「その人にとっては何ということはないことだったかもしれないけど、飯盛女を買うような連中は皆、女を使い捨ての道具のように扱います。でも、その男は違った。珍しくあたしを一人の女として扱ってくれたんです。たとえ上辺だけでも、優しい言葉をかけてくれました。馬鹿なようですけど、あたしはそれが嬉しかったんですよ」
おきみは再び視線を川の流れに戻す。
夏の昼下がりの川がぎらぎらとした陽差しに鈍く光っていた。先刻の涼風が嘘のように、川面を渡る風はそよとも吹かない。

