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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―

伊瀬次さん、ありがと」
少し先を歩いていた伊勢次が振り返る。
嬉しげな笑みを浮かべ、大きく手を振った。お彩もそれに大きく手を振り返したところで、伊勢次は踵を返し帰ってゆく。伊勢次の吐く息が白く冷えた夜気に溶けていった。
確かに、伊勢次はここひと月ばかりは「花がすみ」に来ていない。以前はよく仕事帰りに来ていたのだが、お彩は別段、気にしてはいなかった。店に来れば親しく話はするが、お彩の中で伊勢次はあくまで客の一人という認識しかなかったからだ。
それでも、連日の仕事で疲れているだろうのに、心配してくれる伊勢次の優しさが嬉しかった。女一人の家に無理に上がり込もうとしたりしない潔さにも彼の誠実な人柄が窺えて、好感が持てた。しかし、お彩は伊勢次が自分に寄せている好意なぞにこれっぽっちも気付いてはいない。
少し先を歩いていた伊勢次が振り返る。
嬉しげな笑みを浮かべ、大きく手を振った。お彩もそれに大きく手を振り返したところで、伊勢次は踵を返し帰ってゆく。伊勢次の吐く息が白く冷えた夜気に溶けていった。
確かに、伊勢次はここひと月ばかりは「花がすみ」に来ていない。以前はよく仕事帰りに来ていたのだが、お彩は別段、気にしてはいなかった。店に来れば親しく話はするが、お彩の中で伊勢次はあくまで客の一人という認識しかなかったからだ。
それでも、連日の仕事で疲れているだろうのに、心配してくれる伊勢次の優しさが嬉しかった。女一人の家に無理に上がり込もうとしたりしない潔さにも彼の誠実な人柄が窺えて、好感が持てた。しかし、お彩は伊勢次が自分に寄せている好意なぞにこれっぽっちも気付いてはいない。

