この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―

この日、伊勢次が持参した饅頭は日本橋の「大すみ屋」の饅頭だった。大すみ屋はさして大きな店ではないが、上方風の上品な味が評判で、多いときには店の前に行列ができるほどだ。紅葉の季節はそろそろ終わろうとしているが、鮮やかに染め上がった紅葉を象った綺麗な和菓子だ。もし、伊勢次がこの饅頭をわざわざ大すみ屋まで買いにいったのだと知れば、お彩は愕いたに相違ない。伊勢次はお彩に逢う口実として、この饅頭を持ってきたのである。全く涙ぐましい努力であった。
「ごめん、夜分に来て、長話になっちまった。とにかく元気なら、それで良いんだ。変わりなさそうなんで、安心したよ。戸締まりをしっかりして、早く寝んでくんな」
伊勢次は押しつけるように菓子折を渡すと、そそくさと帰っていった。
お彩は呆気に取られていた。そこでハッと我に返って、慌てて三叩土に降り草履を突っかけた。表に出て伊瀬次の背中に叫ぶ。
「ごめん、夜分に来て、長話になっちまった。とにかく元気なら、それで良いんだ。変わりなさそうなんで、安心したよ。戸締まりをしっかりして、早く寝んでくんな」
伊勢次は押しつけるように菓子折を渡すと、そそくさと帰っていった。
お彩は呆気に取られていた。そこでハッと我に返って、慌てて三叩土に降り草履を突っかけた。表に出て伊瀬次の背中に叫ぶ。

