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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第42章 第十五話 【静かなる月】 其の四

今宵、花里を名指ししてきた武蔵屋伝蔵は四十そこそこの恰幅の良い男だが、その脂ぎった顔を見るだけで、花里は気分が悪くなるほど嫌いなのだとひそかに打ち明けた。
「おしがさんは、きっと山吹さんが羨ましいんだわ」
眼を見開くお彩に、花里は笑った。
「あの人はあの人で色々とあったらしいから。結構羽振りの良い生糸問屋の内儀だったけど、亭主が酒飲みで、ろくに働きもしないで、次第に店の売り上げを酒代に使うようになっちまって、どうにもならなくなって、ここに来たらしいわ。年季が明けても、そのときには亭主はもうとっくの昔に死んでしまって、子どももいなかったから、帰るところもなかったっていうし。それで、仕方なく、そのままうちの見世に奉公することにしたみたいよ」
「おしがさんは、きっと山吹さんが羨ましいんだわ」
眼を見開くお彩に、花里は笑った。
「あの人はあの人で色々とあったらしいから。結構羽振りの良い生糸問屋の内儀だったけど、亭主が酒飲みで、ろくに働きもしないで、次第に店の売り上げを酒代に使うようになっちまって、どうにもならなくなって、ここに来たらしいわ。年季が明けても、そのときには亭主はもうとっくの昔に死んでしまって、子どももいなかったから、帰るところもなかったっていうし。それで、仕方なく、そのままうちの見世に奉公することにしたみたいよ」

