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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第37章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の参

「いけねえ。降ってきちまったみてえだ。大降りにならねえ中に帰りましょう」
安五郎の言葉に、お彩は我に返り、慌てて頷いた。
翌朝、安五郎は京に向けて発っていった。
お彩は日本橋まで安五郎を見送った。
安五郎は橋の中ほどで立ち止まり、しばし名残惜しげにお彩を見つめた。お彩が小さく目礼すると、安五郎もまた小さく辞儀を返し、今度こそ背を向けて迷いのない足取りで橋を渡っていった。お彩はその長身の後ろ姿が見えなくなるまで、その場に佇んで見送った。
喜六郎はこの顛末に随分と落胆したようだったが―、
―人の心、殊に男女の仲だけは思うに任せないものだなぁ。
とぼやいたきり、その後、安五郎の名はもう二度と出そうとはしなかった。
京屋市兵衛との約束の期日までは、残すところ、あと一日、明日に迫っていた。
安五郎の言葉に、お彩は我に返り、慌てて頷いた。
翌朝、安五郎は京に向けて発っていった。
お彩は日本橋まで安五郎を見送った。
安五郎は橋の中ほどで立ち止まり、しばし名残惜しげにお彩を見つめた。お彩が小さく目礼すると、安五郎もまた小さく辞儀を返し、今度こそ背を向けて迷いのない足取りで橋を渡っていった。お彩はその長身の後ろ姿が見えなくなるまで、その場に佇んで見送った。
喜六郎はこの顛末に随分と落胆したようだったが―、
―人の心、殊に男女の仲だけは思うに任せないものだなぁ。
とぼやいたきり、その後、安五郎の名はもう二度と出そうとはしなかった。
京屋市兵衛との約束の期日までは、残すところ、あと一日、明日に迫っていた。

