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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第5章 第二話・其の弐

二階へ続く階(きさ゜はし) は丁度、死角になった場所にあり、そのすぐ傍には手水(手洗い)がある。店の者だけではなく、客も利用する手水であり、そこに入るふりをして二階へゆくことは十分可能なのだ。
しかし、お彩は敢えて何も言わなかった。
「花がすみ」で働き始めて、はや二年近くが経とうとしている。喜六郎の上方仕込みの料理とお彩の美貌と愛想の良さで「花がすみ」の客は増える一方だ。お彩は多くの店の常連の顔と名前はほぼ全てそらんじているけれど、改めて一人一人の顔を思い浮かべてみても、店の金を盗むような輩は一人としていなかった。
また、「花がすみ」を気に入って通ってくる馴染み客を疑いたくなかったという気持ちもある。お彩が物想いに沈んでいると、喜六郎が言った。
「小巻、ちょっと悪いが、外してくれねえか」
「何ですって? おとっつぁん、こんな大切な、店の存続に拘わる話のときに私に出ていけって言うの?」
しかし、お彩は敢えて何も言わなかった。
「花がすみ」で働き始めて、はや二年近くが経とうとしている。喜六郎の上方仕込みの料理とお彩の美貌と愛想の良さで「花がすみ」の客は増える一方だ。お彩は多くの店の常連の顔と名前はほぼ全てそらんじているけれど、改めて一人一人の顔を思い浮かべてみても、店の金を盗むような輩は一人としていなかった。
また、「花がすみ」を気に入って通ってくる馴染み客を疑いたくなかったという気持ちもある。お彩が物想いに沈んでいると、喜六郎が言った。
「小巻、ちょっと悪いが、外してくれねえか」
「何ですって? おとっつぁん、こんな大切な、店の存続に拘わる話のときに私に出ていけって言うの?」

