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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第37章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の参

根っから人の好い喜六郎は、安五郎のこれまで女っ気が全くなかったという話を頭から信じ込んでいるようだ。しかし、お彩だとて、世間知らずのおぼこな娘ではない。いくら安五郎が無愛想だ口下手だといっても、女にはとんと縁がなかったという台詞を、そのまま鵜呑みにしているわけではなかった。この歳まで独り身を通したのは、安五郎にもやはり彼なりに相応の過去があるに違いなかった。
眼尻にわずかに小さな皺が刻まれていて、笑うと、その皺が少しだけ目立つ。それも齢のせいであろうが、その皺の中に、お彩は安五郎のこれまでの人生の様々な悲哀を見たような気がした。安五郎は大人の男だ。お美杷の父親がそも誰であるかについて訊ねもしなかった。
眼尻にわずかに小さな皺が刻まれていて、笑うと、その皺が少しだけ目立つ。それも齢のせいであろうが、その皺の中に、お彩は安五郎のこれまでの人生の様々な悲哀を見たような気がした。安五郎は大人の男だ。お美杷の父親がそも誰であるかについて訊ねもしなかった。

