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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第31章 第十二話 【花見月の別れ】 其の弐

共同井戸までいくと、既に先客がいた。
斜向かいの大工留吉の女房おさきである。
「今日は温かくなりそうですね」
お彩は挨拶代わりにおさきに声をかけた。
それは何も満更、愛想というばかりでもない。
井戸端には温かい陽差しが溢れ、小さな陽だまりを作っている。すぐ前の路地を長屋の子どもたちが歓声を上げて走り過ぎてゆくのを、お彩は眩しげに眺めた。先頭を走っているのは、おさきの一人息子留松である。七つになったばかりの悪戯盛りの腕白坊主だ。始終いたずらばかりしては、大人たちに怒られてばかりいるが、どこか憎めない愛嬌があるのは、母ゆずりの性格だろう。
斜向かいの大工留吉の女房おさきである。
「今日は温かくなりそうですね」
お彩は挨拶代わりにおさきに声をかけた。
それは何も満更、愛想というばかりでもない。
井戸端には温かい陽差しが溢れ、小さな陽だまりを作っている。すぐ前の路地を長屋の子どもたちが歓声を上げて走り過ぎてゆくのを、お彩は眩しげに眺めた。先頭を走っているのは、おさきの一人息子留松である。七つになったばかりの悪戯盛りの腕白坊主だ。始終いたずらばかりしては、大人たちに怒られてばかりいるが、どこか憎めない愛嬌があるのは、母ゆずりの性格だろう。

