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月下の契り~想夫恋を聞かせて~
第9章 小平太という男
 その部屋に面した庭は〝芙蓉の庭〟と呼ばれ、薫子は昔から〝芙蓉の君〟と呼ばれていた。初夏から秋口にかけて、それは見事な酔芙蓉が咲き揃う。亡くなってしまったけれど、かつては帝の妃候補でもあった異母姉奏子はその居所から〝紫陽花の君〟と呼ばれていた。むろん、紫陽花の咲き誇る庭に室が面していたからだ。
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