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第13章 動揺と安定

『のの。のの？』

私をふわっと抱きしめる男が、頭の上から優しく名前を呼ぶ。

声の主の顔は見えなくても……

それは……

それは……

『のの……

ああよかった。愛してるよ、のの』

低く穏やかに響く告白なのに、何も返すことができない。

その胸にただ顔を埋めて身体を固くしたまま、

私は身じろぎすら出来ない。

心臓はこれでもかと早鐘を狂い打っていて……

壊れてしまいそうだった。


先輩、どうして今更……

今更現れるの？

なにがよかったわけ？？

なんで愛してるなんて言うの？？？


固く目を閉じたまま立ち尽くしていると、

顎に手をかけられて上を向かされ……

『お前はもうそこを超えてきたんじゃないか？』

頭の中に響いた絞り出すような先輩とは違う声に目を見開く。

『のの……』

視界を認識すると、目の前のその人は顔がなかった……


『お前はやっぱりまだそいつのものだったのか？？』

再び問われる苦し気な口調に、首を横に振った。

「イヤー――――――」

叫んでももがいてもその腕から解放されることはなかった。

『俺だけのものになったんじゃなかったか？？』

顔がないのにその人の口角は

イジワルに上がっているように見えて……

視界が滲んで渦を巻きながら歪む。