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Only you……番外編
第16章 恋の種をまこう

私は一度倒れてしまってからたがが外れたのか、時々麻都さんを飲みに誘うようになった。嫌なことがあったときや、イライラしているときには当たり前。麻都さんも嫌な顔しながら結局は付き合ってくれる。私は毎回愚痴を言っては気を失い、麻都さんに家まで運ばれるのだった。もうなんだか安心しきっていた。なんだかんだいって、いまだに私に手を出してこないのは女として見られていないのか、それとも全くもってタイプではないのか。そんなことはどうでもよくなっていた。

あんなに嫌っていた会社のはずなのに、私は気がつけば出社するのを楽しみにしている。まるで勉強は嫌いでも友だちが大好きな中学生のように。今となっては、口に出さなくても母がこの会社を勧めてくれたことに感謝している。

――私も変わったなぁ……。

年寄りのようではあるが、そんなこともしばしば考える。そんな時は大抵窓の外を眺めていたりする。15階からの眺めは最高だった。そして、私の席から窓の外を見ようとすれば、必ず麻都さんの横顔が視界に入るのだった。綺麗な横顔が……。

「りん」

「はい……」

いつも通り書類のコピーやなんかを頼まれる。私は秘書なのだ。それ以上でも、それ以下でもないし、あってはいけない。

「これを」

顔も上げずに渡された印刷物を持って、私は部屋を出た。カツカツと靴音を響かせながら、廊下を突き進んでいく。

近頃私は暇さえあれば麻都さんのことを考えている。あの悲しそうな笑顔のわけも、未だに知らない。女も男も見境なく抱いては、捨ててを今も繰り返しているし、大学だって順調にいってるらしい。

「はぁ」

最近溜息が増えた。そしてそんな自分に苦笑する。この歳になって恋の悩みかしら? と。

恋愛に年齢は関係ないという。実際その通りだとは思っているし、私はまだまだ20代前半なのだから、けして歳を取っているわけではない。

正直なところ、私は麻都さんに好意を抱いている。それは間違いない。しかし、麻都さんの方はそんな気は全くもってないようだし、遊び相手の一人に加えられるくらいならば今のままで構わない。それくらいのプライドは捨てられなかった。

好きと思いつつも、それは憧れのようなものかもしれない。
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