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Only you……番外編
第15章 寂しげな横顔

私は今晩がやってくるのが怖かった。怪しい場所ではないとは言っていたが、具体的にどこなのかまでは聞いていなかった。尋ねたくても警戒心を露にしているようでなかなか聞けず、結局今に至るのだった。
パソコンに向かって書類をまとめている時も、誤字脱字がやたらに多くて、自分に腹が立った。それほど動揺しているのだ。
ついに“今晩”がやってきてしまい。私も副社長も仕事を早々に切り上げて出かける準備をした。荷物を鞄にまとめ、上着に袖を通す。
「なにびびってんの?」
私の動きが怪しかったのか、会社から出る寸前で副社長にそんなことを言われてしまった。
「な、なんでもありまっ――あぁ!!」
そのセリフに余計に動揺してしまい、私は地面に敷き詰められたタイルの溝に引っかかり躓いた――。
と思った次の瞬間には、私は副社長の腕のなかにいた。片腕に支えられ、間一髪のところだった。そして不覚にも、私は副社長の腕に掴まってしまっていたのだ。
慌てて離れても赤く染まった頬はなかなか収まらず、心臓も激しく打っていた。
副社長がそんな私をみてぷっと吹き出す。
「はははっ。まぬけだな、ホント!!」
馬鹿にされ、怒りや恥ずかしさを通り越して悲しくなってきた。
副社長は右手を上げてタクシーを止める。私たちはそれに乗り込んだ。
「あの……副社長? どこへ行くんですか?」
私は恐る恐る尋ねる。
副社長は「イイトコ」というとくくっと笑った。
「そうだ、あのさ、仕事時間以外は副社長っていうの止めてくれない?」
「えっ……?」
突然のことに私は副社長の顔を見つめた。
「そう呼ばれるの、好きじゃないんだよね。仕事のときは仕方ないけど……」
そう言った副社長の口調は拗ねた子供のようだった。思わず私は笑みを浮かべる。
「それでは何とお呼びすれば?」
「うーん」
軽く首を捻り、唸った。
「麻都でいいよ」
「……」
いくら歳が大して変わらないとはいえ、上司を呼び捨てにはできない。私は仕方なく「麻都さん……」と呟いた。
「しゃーない、それでいいよ。さんとかもあんまり好きじゃないけどね」
意地悪く笑っていた。

