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Only you……
第2章 明 1

「たす……けて」
自分で言った寝言で、オレは目が覚めた。随分昔の夢を見たもんだ。気分は最悪。全身汗ばんでいて、とても心地よいとは言えない状況になっていた。
それでも、ここが自宅じゃないことに気付き、慌てて辺りを見回した。殺風景な部屋だった。一応寝室なんだろうが、バカデカイベッドと箪笥のほかには、窓くらいしかない。オレはここを見たことがあるような気がした。
「お目覚め?」
横から誰かが声をかけた。誰? くらくらする頭で一生懸命考える。思い出せない。というか、たぶんオレはこの男の名前なんて初めから覚えていないに違いない。
「具合はどう? なんか食べれそうかい?」
にこにこしながら話しかけ、オレの額の汗をタオルで拭う。それが無償にウザったかった。それを振り払おうと手おを動かしたとたん――。
目眩がおそった、そして、オレはその男の腕の中にいた。
「無理すんなよ。3日間も寝てたんだから」
3日? うそだろ? オレたしか、仕事入ってたよな? この仕事しなかったら、明日食う飯も用意できないんですけど……。
不安そうなオレに気が付いたからなのか、男は「しばらくはうちにいればいい」と言った。そうやって、オレを縛ろうというのか。まったくウザかった。
「あんた、ダレ?」
だるい体をなんとか動かして、オレはさっきから思っていたことを口にした。顔は知っているし、オレはこの男と何度も体を重ねたことがある。それは分かっている。でも、名前は知らない。別に記憶喪失なんかじゃない。ただ、覚えるのが面倒で、聞いてなかったんだと思う。
「俺の名前、知らない?」
男は驚いたようにオレを見ると、ふっと溜息をついた。
「だから名前呼ばれたことなかったんだ。俺は、架上 麻都」
「架上……」
「麻都でいい。明」
こいつは――麻都はオレの名前知ってるんだ。そういえば、何度か呼ばれたことがあったような、なかったような。
「麻都……腹減った」
「はいはい。お粥、作ってくるよ」
そう言って、麻都は寝室を出ていった。

