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Only you……
第8章 明 4

コンコン――。
白いドアをノックすると透真さんの「はぁい」という声が聞こえた。麻都がドアを開け、オレはそれに続いて中へと踏み入れた。
「また来たのか。どうだ、答えは出たか?」
にやりと笑う貴正さんに、麻都も笑みを返す。
「もうソッコーで俺に会社譲るしかないんでない?」
余裕の笑みでそう宣言した麻都に、貴正さんは参ったとばかりに両手を上げ肩をすくめた。
「りんや、透真や、明や、みんなが俺を支えてたんだ。何で1人で生きていると思ってたんだろうな」
麻都は照れくさそうに言った。
突然貴正さんの様子が変わった。
手で口を胸を押さえ、苦しそうに呼吸をし始めた。顔から血の気が失せていき、青とも白ともつかないような色へとなってゆく。オレはどうすることもできずに目を見開いていた。
すかさず透真さんがかけより、背中をさすった。貴正さんは苦しいながらも安心したような表情を浮かべる。
「麻都……行け」
吐き捨てるような台詞。オレは麻都を見上げた。
「行くぞ……」
オレの背中をぽんと押し、先を歩いていってしまう。オレは本当にそれでいいのか迷っていた。
「でもっ!」
「いいから、来い」
真剣な目で睨まれ、オレは後ろを振り返る。貴正さんはむせ込んだまま、背中を擦られていた。
「あ、きら、くん……バカ息子を、頼んだ」
オレは涙を堪えて廊下へ出た。
パタンと閉まるドア、無言で歩く麻都……。オレは麻都の背中に飛びついた。
「……うぅ……っ」
涙が出た。何かを予感するような、恐ろしい感覚に独りではいられない恐怖。麻都はオレの頭を撫でながら、落ち着くのを待ってくれた。
「人生っていうのは、幸せと不幸がプラスマイナスゼロなんだってさ」
遠くを見つめる瞳は一体何を映しているのだろうか。
「でも……どうせなら幸せを感じている時に死にたいよな?」
その疑問は一体誰にぶつけているのだろうか。
オレはひくつく喉を懸命におさえ、麻都の後を歩いた。
オレたちとは反対の方向へ、医者と数人の看護婦がかけていった。

