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Only you……
第7章 麻都 4

昨夜の明の言葉を反芻させる。思い出したくもないのに、ぐるぐると巡る“愛してる”と“麻都は愛してないの?”という控えめな落胆。明はどんな気持ちでこの言葉を口にしたのだろうか。本気か否か、未だに判断できない。

瞼を閉じると瞳が熱を持っていた。そのせいで自然と涙が滲む。そのまま垂れ流して俺は、俺の体の一部分であるその水分を捨てた。

後方から、くぐもった音が聞こえた。俺は慌てて振り返る。もちろん、何もなかった。俺はもう一度前を向く。どこかで期待しているのかもしれない。明が本気で俺を愛してくれることを。

「麻都……?」

やはり聞こえた。ドアに遮られ、くぐもった明の声。確かに、幻聴ではない。

俺は耳を知らぬ間に澄ましていた。

「あさ……とぉ」

カタリとドアが揺れる。明が触れたのだろうか。

俺は、胸が締め付けられる痛みを覚えた。きゅっと。

ドアの向こうの明は、泣いているのだろうか。それとも怒っているのだろうか。いや、呆れているのかもしれない。

俺が明をここに住まわせたのに。

逃げ出した明を、何度も連れ戻したのに。

守ってやると誓ったのに。

幸せにしたいと思ったのに。


あれは全部、幻だったようだ。



時は金なり。

なるほど、確かに時がたつのは早かった。放心状態のまま机に向かい、何を見るでもなく目を虚ろに、呟く明の声も止み、気づけば部屋はオレンジに染まっていた。美しい落陽が、目の前の窓いっぱいに広がっている。

俺はドアを開けた。いい加減引きこもっているわけにはいかない。明日には会社へ行って謝らなければならないし、仕事だって溜まっているはずだ。そんな俺の足に、何かが倒れてきた。暖かい足元を見ると――。

「あ、きら?」

涙の跡が残る頬、怒ったような表情のまま眠っていた。

「ハハハ……」

俺は思わず笑ってしまった。しゃがみ込んで綺麗な黒髪に触れ、その柔らかな感触を味わう。

会社のため、おっさんのため、明のため……。そんなことを想いながら、俺は焦っていた。でも本当は、自分のことで精一杯だっただけなんじゃないだろうか。不安で不安で、どうしようもなくて、何かに縋りたくて。


そういえば、俺は一体、何を心配していたのだろう。
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