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Only you……
第7章 麻都 4

おっさんは虚ろな目で天井を見上げていた。そして1、2分ほど経ってから、ようやく口を開いた。
「あー……痛ぇ」
開口一番がそれだった。
透真は神妙な面持ちでおっさんを見つめていた。俺はこの場でどういう反応をするべきなのか分かりかねていた。
「透真、麻都、なんでそんな顔してるんだ?」
首だけを静かに回して俺たちの方に視線を向けた。口が完全に開ききらないのか、いつもよりも篭った声で聞き取りにくい。俺は口元を見つめていた。
「はは……ばれちゃったな。ホントに……」
掛け布団の下からゆっくりと右手を出し、顔の前に掲げた。そして指を曲げ伸ばしさせる。そのたびに顔は苦痛で歪んでいた。
俺にはその痛みは想像できない。心臓の痛みなのか――あるいは心の痛みなのか。
「馬鹿野郎!! なんで黙ってるんだよ! 痛かったんだろ?!」
透真が突然立ち上がり、空気を切るような大声で叫んだ。顔は真っ赤に染まっていて、両手は硬く握られていた。
おっさんは驚いた顔をして透真を見ていた。
「そんなに僕は頼りないかよ!」
言い切るとガタンと大きな音をたててパイプ椅子に倒れるように座り込んだ。そして俯いたまま動かなくなった。
「違う。頼ってたよ」
おっさんは微笑んでいた。
「我慢してたのは自己満足。頑張って生きてるんだっていう、自己満足」
再び上を向きなおし、天井を見つめていた。
「透真だったら、何かあっても何とかしてくれるだろ? 我侭言っても笑ってくれるじゃないか」
「でもっ!」
透真が勢いよく顔を上げた。
おっさんの目じりから涙が伝った。
「あー……私だって人並みに頑張ったのになぁ……」
その雫はこめかみの方へと流れ、真っ白な枕に小さな染みを作ってゆく。こんなおっさんは初めて見た。こんなに弱々しいのは、初めてだった。
透真が椅子を立ち、おっさんの枕元へと寄った。そして涙を指先で拭う。
「ごめん。僕が取り乱して」
透真の横顔は笑っていた。

