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Only you……
第7章 麻都 4

「もっしもーし?」
馬鹿みたいに明るい声で電話口に出た俺は、その声の主が早口にまくしたてる言葉に酷い目眩を感じた。そして持っていた受話器をずるりと開放してしまった。
――なん、だって?
「貴正が倒れて運ばれて手術してるんだ早く来てくれ血が足りないから早く早くっ」
休みなく息継ぎもせずに飛び出す言葉は、俺の耳に入っては出て行った。唖然と立ち尽くしていた。口も目も開けっ放しだった。
突然ハッと我に返ると、俺は車の鍵だけを引っつかみ玄関から慌てて駆け出した。地下の駐車場まで階段で駆け下り、車を発進させる。制限速度を軽く30キロはオーバーして公道を走る。運良く白と黒の2色で塗り分けられている車には出会わなかったようだ。俺は総合病院の駐車場に乱暴に車を叩き込むと鍵もろくにかけずに手術室へと走る。
――おっさん! しっかりしてくれよ。
病院に行けと言っていたのに、結局行っていなかったようだ。
手術室の前に着くと、俺のバタバタという足音に透真が顔を上げた。その顔は蒼白で、血が足りないのはおっさんではなく透真のことではないかと思った。
「麻都くん!!」
透真は言うなり俺の肩を両手で掴み前後に振った。
「血液型!! Aだったよな?!」
看護士が2人俺の元へとかけよってきて「こちらへ」と案内した。俺は透真から離れるとそっちへついてゆき、血液を採取される。しばらく寝た体勢でたぽたぽと俺から出てゆく血液を眺めていた。これが全ておっさんの体内へと加えられても、きっと足りはしないのだろう。おっさんの体から溢れてくる鮮血を思うと、鳥肌が立った。
採血が終わり廊下へと戻る。透真はベンチに腰掛け、俯いていた。
俺はそんな透真の横に静かに腰掛けた。
「……僕さ、O型なんだよね。こんな時に貴正の役に立てないんだよ」
ははっと笑った声は乾ききっていて、俺は透真の肩をぱしっと叩いた。
「気にすんなよ。そんなの仕方ないだろ? そういうときは俺が助けてやるよ」
透真の体から、ゆっくりと力が抜けてゆくのが分かった。俺の到着を待つ間、気が気じゃなかったのだろう。自分では何もしてやれないもどかしさは、想像以上だったに違いない。

