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第9章 弟の元カノ
ピンボーン…

静かな室内にチャイムの音が鳴り響いた。

陽花を愛里咲に手渡し、インターフォンを覗き込む琉。


「チッ…」

映し出された廊下の画像に、琉は小さな舌打ちを漏らす。


「…………誰?」

「ストーカー」

「……芙由、ちゃん?」

そう聞いた愛里咲に、琉の眉間がグッと引き寄せられる。


「ちゃん付けすんな。仲良くする気ねぇから」


その言葉に愛里咲は少しだけ安心するが、逆に違う不安も過る。


「あ…の、芙由ちゃんて、芙美ちゃんの妹なんだって」

「芙美?」

「その…琉ちゃんが……高1の頃に付き合ってた……」

暫く思案していた琉。

「あー…」

何とも言えない表情でそう零す。


「っ、森永さんの事は忘れてたのに、芙美ちゃんの事は覚えてるんだ……」

1年下で入社してきた森永摩美。

中学時代に琉と付き合っていたと言い張る摩美の事は今だに思い出せないくせに、高校時代の彼女は覚えているのかと愛里咲は唇を噛んだ。


「森永は中学ん時の話だろ。芙美は…強烈過ぎて覚えてるだけ」

白くなった愛里咲の唇を指でなぞって解し、琉が呟く。


「………確かに、ちょっと変わってるよね」

変わってる…なんて言葉では物足りないけれど……

愛里咲は、心の中でそう付け足し、

ピンポーンピンポンピンポン…

鳴り止まないチャイムにため息を零す。


「芙美の妹か……厄介だな」

琉もまた、抱き寄せた愛里咲の頭をそっと撫でて、そう呟いた。


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