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助教 沙霧
第2章 研究の日々
 他者の目を意識し、感情を押し殺すことで、内なる熱が高まる。

 それは沙霧が研究対象としている和歌の真髄であると同時に、沙霧自身の日常そのものでもあった。
 研究会の最中、彼女の視界に岸田の古びた万年筆を持つ手が映った。その節くれだった指先や、紙を捲る乾いた音に、なぜか心拍が微かに乱れる。知的な対話の裏側で、沙霧の脳裏には場違いな空想が割り込もうとする。

 ――もし今、この厳格な教授の前で、私が突如として服を脱ぎ捨てたら。
 ――知性の象徴であるこの研究室でぶざまに這いつくばり、獣のような声を漏らしたら。

 沙霧は膝の上で拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込み、微かな痛みが彼女を正気へと引き戻す。

「……失礼しました。少し、集中を欠きました」

「いや、いいよ。君は少し根を詰めすぎだ。たまには息抜きも必要だよ」

 岸田の優しい言葉が、かえって沙霧の罪悪感を煽る。
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