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助教 沙霧
第6章 仮面の日常
夕刻、一人で資料室に残り、文献の整理にいそしむ沙霧。
高くそびえる書棚の隙間で、沙霧はふと自分の左手首を見つめた。そこに白く残っている腕時計の跡。だが沙霧の脳裏には、そこに太い皮の戒めが嵌められ、鎖で繋がれている自分の姿が、鮮明な幻覚として現れた。
(「誉」と名乗るこの男は、私のこの堅固な日常の裏側に潜む淫らな本能を、ただ一人見抜いている。私がどんなに冷徹な質問を浴びせようと、どんなに完璧な論文を書こうと、彼にとっては、主人の前で震える哀れな牝の遠吠えに過ぎないのかもしれない。。。)
沙霧は、持っていた資料を机に叩きつけるように置いた。静かな資料室に鋭い音が響く。沙霧は自分の短い髪を両手で乱暴に掻き揚げ、深く、深く息を吐いた。胸の鼓動が激しい。
仮面はまだ、剥がれてはいない。だが、その裏側で流れる汗は、すでに彼女の理性をふやかし、脆く崩れやすいものへと変えていた。
彼女は震える指でスマートフォンを取り出し、ブログの管理画面を開いた。誉への返信を書かなければならない。それは、彼女にとっての「告白」であり、同時に、この息詰まる日常から逃れるための、唯一の呼吸口であった。
「……私は、檻などに入ってはおりません」
誰もいない室内で、沙霧は小さく呟いた。
その言葉が、あまりに虚しい嘘であることを自分自身に言い聞かせるように。
高くそびえる書棚の隙間で、沙霧はふと自分の左手首を見つめた。そこに白く残っている腕時計の跡。だが沙霧の脳裏には、そこに太い皮の戒めが嵌められ、鎖で繋がれている自分の姿が、鮮明な幻覚として現れた。
(「誉」と名乗るこの男は、私のこの堅固な日常の裏側に潜む淫らな本能を、ただ一人見抜いている。私がどんなに冷徹な質問を浴びせようと、どんなに完璧な論文を書こうと、彼にとっては、主人の前で震える哀れな牝の遠吠えに過ぎないのかもしれない。。。)
沙霧は、持っていた資料を机に叩きつけるように置いた。静かな資料室に鋭い音が響く。沙霧は自分の短い髪を両手で乱暴に掻き揚げ、深く、深く息を吐いた。胸の鼓動が激しい。
仮面はまだ、剥がれてはいない。だが、その裏側で流れる汗は、すでに彼女の理性をふやかし、脆く崩れやすいものへと変えていた。
彼女は震える指でスマートフォンを取り出し、ブログの管理画面を開いた。誉への返信を書かなければならない。それは、彼女にとっての「告白」であり、同時に、この息詰まる日常から逃れるための、唯一の呼吸口であった。
「……私は、檻などに入ってはおりません」
誰もいない室内で、沙霧は小さく呟いた。
その言葉が、あまりに虚しい嘘であることを自分自身に言い聞かせるように。

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