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助教 沙霧
第3章 忍び寄る支配者
 このブログは、沙霧にとっての「掃き溜め」であり「聖域」だった。学術誌には書けない、より主観的で、ともすれば淫靡な解釈を綴ることを、ここでだけは沙霧は自身に許していた。普段のアクセス数は微々たるもので、たまに来る反応も、同業者らしき者からの事務的な指摘ばかりだ。
 だが、その夜、一番上に表示されていたのは、見慣れないハンドルネームだった。

『誉』

 その一文字の名前に、沙霧の指が止まった。

(「ほまれ」かしら… 男性?)

 コメントの内容を確認する。

「初めまして。貴堂 誉と申します。古典和歌の深淵を求めて彷徨っておりましたら、この素晴らしい場所に辿り着きました。
 和泉式部のその歌、多くの注釈書では『不在の恋人への執着』と説かれますが、貴女の綴られた解釈は、髪を乱すことでしか表現できない内なる自虐的な渇望とでも言うべきものでしょうか。胸を突かれる思いがいたしました。
 私は最近、定年を機に生涯学習として和歌を学び始めたばかりの浅学な者です。当然ながら、知識も経験も、貴女という先達には遠く及びません。ですが、貴女の文章の行間から溢れる『熱』に、言い知れぬ敬畏を覚えました。
 不躾ながら、これからも貴女を師と仰ぎ、学ばせていただければ幸いです」
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