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混浴露天風呂・痴漢ワニに囲まれて
第8章 ワニ
気配を感じて振り返ると息子達が立っていた。

「マジでウザいな。追いかけてくるなって」

「母親だからって付き纏うなよ。このストーカー」

「こっちは忙しいのに、温泉だとか、花火だとか、バカかよ」

「ちょっとは受験を控えている俺に身になってくれよ」

囲まれて、怒鳴られて、睨まれた。何か言おうとしも言葉にならない茉莉子。息子なのに、恐怖しか感じられなかった。

「やっちまって山に埋めてしまえよ」

後ろから声がしたて、肩を掴まれて、

「やめて!」

叫びながら、慌てて振り返ると、夫が立っていた。

そこで、目が覚めた茉莉子。



どうしてこんな夢を見るの…。恐怖からか冷や汗というか、妙な汗で濡れた身体。

茉莉子の叫び声を聞いて、誰かが来た。部屋の引き戸をノックする音。

「だれ?」

茉莉子が訊くと、

「俺たちだけど。どうしたの?」

と、壮介の声が聞こえた。

「大丈夫だから」

茉莉子は答えた。

「だといいけど。何かあったら声を掛けて」

「俺たち、まだ起きているから」

将星と征人の声が聞こえた。

「大丈夫。夢を見ただけだから」

呟いて、茉莉子は身体を起こそうとしたが、起こすより先に、寝てしまった。そして、また、夢を見た。さきほどの続きなのか、別の夢なのか、わからないままに、また、温泉宿にいる夢。



熱い。身体が熱い。汗が…。汗を流したい。茉莉子は、そう思って、風呂に入ろうと部屋を出て階段を降りて、風呂に向かった。『使用中』の札はかかっていなかった。

着ていた浴衣を脱いで、浴室を抜けて、露天風呂に出た。

誰もいない露天風呂。遠くに波音が聞こえた。

露天風呂の洗い場で、シャワーを浴びて、湯船に浸かった茉莉子。

大きく息を吐いて、目を閉じた。

「ここまで着いてくるのかよ。クソババア」

と、言う声で目を開いた。

「たいがいにしろよ」

「キモいんだよ」

「母親だからって、何を考えているんだよ」

息子たちがいつの間にか目の前の湯船や、洗い場に立っていた。

「どこにいたの?」

茉莉子は訊いた。

「『どこに』だって?ずっといたよ」

「母親だからって、息子が入っている風呂に入ってくるってどういう神経しているんだ?」

「マジでキモい」

「なんだよ。その顔。母親面するんじゃねえよ」
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