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あの日 カサブランカで
第2章 ーあの日 カサブランカでー

迎えのワゴン車は中東にも多い日本の車ではなかった。
駅前の往来を離れ、車が曲がりくねった坂道を下りながら細い路地の続く旧市街地区へ入り、10分ほどで着いた『リヤド アル・カザール』と言う名のそこは、ホテルと言うよりも、モロッコの伝統的様式である中庭を持った邸宅を改築した宿泊施設だった。
多少の予備情報は持っていた圭一だったが、天空からの光が入る広い吹き抜けにさまざまな植物が生い茂るパティオへオーナーに案内されると、麻美とともに思わず感嘆の声をあげた。
「すごい!… 素敵~!」
麻美の感激の笑顔を見た女性オーナーが、微笑む。
ひととおりの説明が終わってガイドの案内を受け始めたところで圭一が列車の中で紹介を受けたことを話すと彼女の顔色が変わり、旅行者向けに法外な金額を要求する無許可の者がいるので調べると言って、圭一からメモを受け取るとすぐに電話をかけ始めた。
アラビア語の会話は圭一たちには理解できなかったが、電話を終えた彼女からモハメドという名のそのガイドは資格を持っているから問題なかったがこれからは気をつけるようにと教えられたのだった。
彼女に礼を言ってから連れられて階段を上がり、案内された部屋はパティオを見下ろすように設けられた回廊に面した居室だった。
アーチの入口をくぐると床のモロッコタイルに絨毯が敷かれた小さなリビングスペースがあり、となりには真っ赤なダブルベッドが据え付けられている。
反対側には全てアラベスクのタイルでしつらえられた扉のない広い浴室が備わっていた。
パティオに始まり、ひとつひとつ初めて実際に眼にするアラビア様式の佇まいに圭一も麻美もただ感嘆の声を上げるばかりだった。
圭一の部屋に続けて案内された麻美の部屋は回廊の角をはさんで圭一の部屋と隣り合わせだったが、天蓋のあるベッドは濃いプルシアンブルーのリネンで包まれ、バスタブを支える猫足は鈍い金色を放っていた。

