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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第13章 蛇との取り引き

 恐ろしかった。

「ふざけた事を言わないで!」

「おいおい、喰わせろって意味じゃないぜ?」

 大蛇は彼女の反応を可笑しそうに笑った。

 同時に、じろりと全身を流し見る。巫女は思わず着物の合わせを掴んだ。

「鬼王が執着してるその身体……遊びたくなるのもわかるだろ?」

「……っ」

 穢される。

 巫女は即座に逃げ出した。

 石階段を駆け上がり、冷たい空気を切り裂くように走る。

「きゃっ…!?」

 だが、階段を上りきったところで、足元にヌルリとした感触が絡みつき、彼女はうつ伏せに倒れた。

 片足を見ると、銀色の鱗を持つ蛇が巻き付いている。

 ズルッ.....

「ひっ…」

「話の途中で逃げるなよ」

 ゆっくりと後を追ってきた大蛇が、横たわる彼女の隣に腰を下ろした。

「人界が心配だろう? ちゃんと送り届けてやるから」

「そんな戯言っ…信じられません!」

「ハハハッ、悲しいね。なら誓いを立ててやってもいい」

「誓いを…!?」

 大蛇の赤い瞳が、彼女をじっと見つめる。巫女も思わず見つめ返した。

「そんな…っ、本気なのですか?」

「当然だろう。俺たちモノノ怪は嘘をつかない──…人間と違ってな」

「……っ」

 巫女の身体が震えた。

 悔しさとおぞましさで、涙が頬を伝う。

 彼女は唇を噛み、目を閉じた。


(わたしは……っ)


 人界の惨状、都の崩壊、子どもの泣き声が脳裏に焼き付き、彼女の心を締め付ける。


(わたしは帰らなければっ…苦しんでいる人たちのところへ…!)


「…っ…わかり、ました」


 声は震え、涙がこぼれた。




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