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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第13章 蛇との取り引き

「どうして町がこの様な惨状にっ…?」
「町だけじゃないかもよ?」
鏡の場面が揺らぎ、今度は近くの里の光景が映し出された。
村からは農家の娘たちが手に縄をかけられ、うなだれて列をなしている。馬に跨った武士たちが、冷たい目で彼女らを監視しながらどこかへ連行していた。
民家からは、母親にしがみつく子どもの泣き声が響き、引き離される親子の悲鳴が空気を切り裂く。里の道端には、打ち捨てられた農具や割れた水瓶が散らばり、かつての穏やかな暮らしの痕跡は踏みにじられていた。
「いったい何が映されているのですか!?」
巫女の声は震え、混乱が色濃く滲む。
「大きな戦があったのですか? 都は? 帝(ミカド)は無事なのですか!?」
大蛇は可笑しそうに笑い、彼女の動揺を愉しんで説明してやる。
「あんたが鬼に囚われてから、都は|飢饉《ききん》にみまわれたのさ。 日照りによる不作と…水不足。朝廷の力が弱まったのをいいことに、武家人たちが徒党を組んで反乱を起こしたらしい」
「そんなっ……そんなわけありません」
巫女は首を振った。彼女が鬼に囚われたのは、ほんのひと月前のことだ。
そんな短い間に、都が攻め滅ぼされているだなんて。
「知ってるだろ? あんたらの住む人界と、ここ境界じゃあ、時間の流れが違う」
大蛇の瞳が嘲るように光る。
「人界では、もう一年以上が経っている」
巫女の顔から血の気が引いた。
「ではっ…都の周りに住む人々はどうなったのですか!?」
「戦だぞ? 王のマントが別の|道化《どうけ》に移るこういう時は……人間どもは律儀に血の酒を作るもんだ」
大蛇の口調は相変わらず軽かったが、その言葉は冷たく彼女の心に突き刺さった。

