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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第11章 天哭ノ鏡

瞳が鋭く光り、彼女を射抜くように見つめた。
「あの狐が喋ったか」
返す彼の声は冷たく、抑揚がなかった。
「その探し物が人の世にあるのではないのですか?だからあなたはこの境界にとどまって…──」
「お前が知る事ではない」
「……っ」
鬼はそれ以上答える気はないらしく、巫女を抱き上げ、縁側から屋敷の中へと入った。
彼女の身体はまだ熱を帯び、鬼の腕の中でくったりとしている。
そんな彼女が運ばれた先には、広間の一角に寝具が用意されていた。
それは巫女の普段の寝具とは似ても似つかない、雅(ミヤビ)で豪華なものだった。
畳の上に敷かれた厚い絹の布団は深紅と紫の濃淡で彩られ、金糸で縫い取られた雲龍の文様がほのかに光を反射している。帳台が四方を囲み、薄絹の几帳が柔らかな光を透かし、白檀の香炉から漂う香りが静かに空間を満たしている。
几帳の裾には繊細な刺繍がほどこされ、貴族の寝所を模したかのような荘厳さがあった。
「お前のためにと用意させた。ありがたく賜(タマワ)れ」
鬼は巫女を布団の上にそっと下ろし、言い放つ。
巫女は寝具の豪華さに驚き、鬼なりの気遣いを感じて心がわずかに温まる。
絹の滑らかな手触り、香炉の白檀の香り、薄絹の几帳が揺れる音──それらは、境界の異質な空気の中で、人の世の懐かしさを呼び起こした。

