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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第9章 朝露の来訪者

「少し我慢してね」
彼女の声は優しく、まるで子守唄のようだった。
狐は身を固くしていたが、巫女の光に触れると、わずかに目を細め、緊張が解けたように体を預けた。
黒く変色した後ろ足から、じわじわと闇のようなものが溶け出し、地面に染み込んで消えていく──。巫女は慎重に呪いを浄化し、狐の体から邪気を引き剥がした。
「よし……これで大丈夫」
浄化が終わると、狐の後ろ足は元の小麦色の毛並みに戻っていた。
大きな二本の尾が軽やかに揺れ、狐はほっとしたように小さくクゥンと鳴く。
巫女は微笑み、そっと狐を抱き上げ、縁側に戻って座った。その体は驚くほど軽く、温かかった。
「よかった。もう痛くありませんよ」
狐は巫女の声に答える代わりに、彼女の腕の中で身を丸め、太ももの上で小さくなり眠り始めた。まるで安心しきったように、彼女の胸に顔を擦りつけ、くつろいでいる。
眠る狐からキュルキュルと高い声が漏れているのは、ネコがごろごろと喉を鳴らすのに似ていた。
キュルル...キュルッ
クゥン
柔らかな小麦色の毛が巫女の肌をくすぐり、彼女は思わず笑みをこぼす。
「…っ…ふふ、ずいぶん甘えん坊なモノノ怪ですね」
その瞬間、偽物の朝光が一層強くなり、森の奥から新たな気配が寄ってきた。
「……?」
「──こんなとこにいたか」
巫女は顔を上げ、鋭い霊感でそれを探る。それはモノノ怪の気配だったが、敵意は感じられない。
「玉藻(タマモ)、ようやく見つけたぞ!」
草むらをかき分けて現れたのは、少年だった。
瘦せた体に古い着物をまとい、髪は乱雑に伸びている。だが、その瞳は狐と同じ琥珀色で、落ち着いた知性とわずかな警戒心が混じっていた。

