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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第6章 未知の怒り

 鬼は鬼界から境界へと戻る。

 鬼界にあるひとつの門の戸を開けると、その先は境界にある彼の屋敷へ繋がっていた。

 荘厳な屋敷の戸を開け、静寂に包まれた空間に足を踏み入れる。だが、そこに巫女の姿はなかった。彼女の気配が消えていることに、鬼は一瞬、目を細めた。

「……逃げた、だと?」

 命令に背き、屋敷を抜け出したという事実に、鬼は呆然と立ち尽くす。

 腹の奥を嫌な感覚が渦巻いた。

(俺の命令にそむいたと言うのか…!?)

 だがその時、山の奥から巫女の叫び声が響いた。鋭い悲鳴が夜の静寂を切り裂き、鬼の耳に届く。

「──!」

 一瞬にして鬼の姿が屋敷から消え、叫び声のする森の奥へと移動していた。



 すると霧深い木々の間に、巫女がいた。

 複数のモノノ怪に囲まれ、ボロボロの白襦袢を掴まれ、絶望的な表情で地面に膝をついている。モノノ怪たちの赤い目が欲望に輝き、鋭い爪が彼女の肌を切り裂こうとしている。

「………!」

 鬼の視線が巫女を捉えた瞬間、胸の奥で未知の感情が爆発した。

 気付けば、彼はモノノ怪の一匹に襲いかかり、鋭い爪でその身体を八つ裂きにしていた。血と肉片が飛び散り、断末魔の叫びが森に響く。

「ナッ…!?ナッ…!?ナゼ鬼王サマがこのようなトコロに!?」

「ここここの女は…っ、たまたま見つけただけで!まさか貴方サマのものとは知らず!」

 鬼に怯えて命乞いをする異形たち。しかし手遅れだ。他のモノノ怪も次々と鬼に引き裂かれ、数瞬で全滅した。

 巫女は呆然とその光景を見つめ、恐怖と混乱に震えている。

 鬼は血に濡れた手で彼女を見下ろし、冷たく笑う。

「俺から逃げた結果がこれか。無謀な女だ」

 だが、心の奥では、巫女を襲ったモノノ怪への激しい怒りが収まらない。

 なぜこんな感情が芽生えたのか、鬼自身にも理解できなかった。切れ長の目には戸惑いが揺れ、いつぶりかも忘れた「怒り」という感情に、彼は静かに狼狽えたのだった──。








 ──…





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