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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第6章 未知の怒り

…──
それは、蓬霊山(ホウレイヤマ)の屋敷から巫女が逃げ出す少し前──鬼は "境界" を離れ、久方ぶりに鬼界へと足を踏み入れていた。
鬼界の花街は、人の世とは異なる、異様な賑わいに満ちていた。
赤色に塗られた建物。色とりどりの提灯が揺れ、異形のモノノ怪たちが蠢く。角を生やした者、鱗に覆われた者、目が一つしかない者──それぞれが欲望の赴くままに動き回り、街は喧騒に包まれていた。
賭け事で盛り上がる叫び声、争い合う罵声が路地に響き合い、酒と淫靡な香りが空気を重くする。
その中心に、鬼はいた。
高い所に置かれた座椅子に背を預け、遊女たちに囲まれながら酒を呷っていた。遊女たちは彼の美貌と妖力に引き寄せられ、媚びるように身を寄せる。
「鬼王さま、久々のご帰還でございますねぇ」
蛇の鱗を持つ遊女が甘ったるい声で囁く。すると別の遊女──翼を生やした女が、酒を注ぎながら笑う。
「人界での探し物はとうとうお終いですか?」
「そうではない」
「では何をなさりに鬼界へ? また何か面白い遊びでも見つけたんですか?」
鬼は杯を傾け、口元に軽薄な笑みを浮かべた。
「興味深い女を手に入れた。そいつに何か買い与えてやろうと思ったが……人間の嗜好など、検討もつかん」
「ほぉ!」
遊女たちが一斉に目を輝かせる。
「鬼王さまのお眼鏡にかなうなんて、どんな玩具なんでしょうねぇ!」
「人間の女か? 具合はどうなんですかい?」と、角の生えたモノノ怪が興味津々に尋ねるが、鬼は答えず、ただ酒を飲み干した。
遊女たちは羨ましげに囁き合う。何か買ってやるにしても、人間の好みなど、鬼界の者にはまるで理解できない。

