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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第20章 呪いの侵食

 鬼界は混乱の極みにあった。

 狐族の森の奥深くから、呪われたモノノ怪たちが突如として大量に発生し、疫病のごとく広がっていた。

 呪いの気配は、赤黒い空をさらに重くし、ねじれた木々の間を這う紫の苔すら黒く変色させる。呪いの侵食を受けたモノは、目が血走り、自我を失って周囲を襲い始めた。

 動けないよう拘束して閉じ込めるしか対処法はないが、その数はあまりにも多すぎる。

 森の奥では、呪われたモノノ怪たちが咆哮を上げて互いに争い、血と妖気が混じり合う凄惨な光景が広がっていた。

 かつて活気あった狐の村も、呪いの巣窟となっている。

「ゼンブてめぇら狐のせいだ!」

 森から離れた花街に集まったモノノ怪たちは、怒りと恐怖に駆られていた。

 彼らは地面に転がされた狐族を取り囲み、罵声を浴びせる。

 縛られた狐族は、すでに身体の一部を呪いの黒い斑に侵され、毛が抜け落ち、目が濁り、自我を失って暴れようとする者もいた。

「たま……も……」

 地面に転がされた狐族の中には影尾(カゲオ)もいた。

 彼の小麦色の髪は血と泥にまみれ、片腕には呪いの黒い筋が這い、弱々しく震えている。意識は朦朧とし……妹の名を呟く声がかすかに漏れていた。



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