この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
巫女は鬼の甘檻に囚われる
第16章 鬼の葛藤

呪いに近付くことはできない。
鬼は洞窟の入口に立ち、片手をかざした。
すると黒い妖気が彼の手から渦を巻き、洞窟の入口を覆って広がる。
妖気は黒い霧となってうねり、岩と岩の隙間を縫うように這い、すぐに入口全体を覆った。霧が固まり、黒い結晶のような結界が形成され、鈍い光を放ち、洞窟の呪いを閉じ込めた。
最後に生ぬるい風が吹いて鬼の銀髪を巻き上げ、境界の封印を終える。
「さらった人間は喰われたのか」
「わかりかねますが、呪いが発生しているとなれば、その可能性が高いかと」
「面倒な」
無人の洞窟にこれ以上の手がかりはなく、鬼は踵(キビス)を返した。式鬼がその後を追う。
「さらに、蓬霊山の人喰い鬼についてですが…」
鬼界の森を戻りながら、式鬼が話を続けた。
「どうやら人界の人間が故意に噂を広めたようです」
「十中八九、その人間は、洞窟に女をさらったモノノ怪と繋がっているな」
「鬼王さまを討伐しようと考えたのでしょうか」
「ふっ…そこまで愚かではあるまい。それの狙いは、都にいる巫女や法師の始末だろう。現に奴らは俺に立ち向かい、死んでいった」
鬼の声には、後悔はないが、利用されたことへの僅かな腹立たしさが滲む。彼の黄金の瞳が、冷たく光った。
「お前は、拐われた人間の隠し場所が他にないかを探せ」
「かしこまりました」
鬼界から元の境界に戻った鬼は、屋敷の地下へと続く扉を開けた。

