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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第15章 罪深きおこない

「それについてはっ…女が知ることではない」

 領主の声には、苛立ちが滲む。しかし巫女は動じなかった。

「わたしは " 女 " ではなく、巫女です」

「であれば尚さらだろう」

 領主の声に、明らかな怒りが混じった。彼は玉座から身を乗り出し、巫女を睨みつける。

 それでも彼女の意思は揺らがない。

「いいえ。わたしは神の遣いとして、人々を守る立場の者です。ここへ来る前に、苦しい生活を送る村の人を見ました」

 領主は皮肉な笑みを浮かべ、声を低くした。

「それを言うならば、あれらを苦しめているのは他ならぬ神ではないのか? もとはと言えば、我らではなく飢饉がきっかけで……」

「いいえ」

 巫女の声は、鋭く領主の言葉を遮った。

 彼女の大きな瞳が、力強く男を睨みつける。


「神は我々に恵みを与えてくださりますが、もちろん、その恵みは永遠ではありません。神の恵みが途絶えたとき、互いに支え合うのか──貶め合うのか──それを決めるのは

 他ならぬ " 人 " でございます」


「……ッッ」


 その瞬間、戸口に垂れていた御簾が、一陣の風にあおられ、音を立ててなびいた。

 宮中の空気が、まるで彼女の言葉に呼応するように震える──。侍たちがざわめき、領主の顔に怒りの色が濃くなる。



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