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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第15章 罪深きおこない

麻の衣は粗末だが、彼女の清らかな美貌は、薄暗い宮中でも際立っている。長い黒髪が肩に流れ、夕暮れの光がその瞳に映り、まるで星のような輝きを放つ。
領主の目が、彼女の顔から首筋、華奢な肩へとじろじろと這う。
「おお……話に聞いたとおりの美貌だ。おぬし、ただの村娘ではなかろうが?」
「わたしは神職──巫女でございます、ご領主さま」
彼女の声は落ち着いていたが、内に秘めた力強さが滲む。
領主は眉を上げ、興味深そうに彼女を見据えた。
「巫女だと? 都の巫女や法師はみな、人喰い鬼の退治で行方不明になった筈だが、生き残りがいたのか」
「わたしは都ではなく、北の山向こうから来ましたので」
巫女は静かに答え、領主の視線をかわさず受け止めた。
相手は彼女の言葉を吟味するように、じろじろと観察を続ける。甲冑の隙間から覗く彼の目は、欲望と猜疑心が混じっている。
「わたしからも質問をよろしいでしょうか」
そう切り返した巫女の声に、領主は一瞬驚いたように目を細めた。
「申してみよ」
「帝はご無事でございますか」
その真剣な声に、領主の表情が一瞬硬くなる。
「……帝は体調が優れぬゆえに、奥の間にこもっておられる」
「……」
(幽閉しているというわけですか……)
巫女の心に、冷たい確信が走った。だが、帝が存命であることに、ひとまず安堵の息をつく。これを聞いた彼女の瞳は、領主をじっと見据えて、静かな決意を宿した。
「それよりおぬしの不思議な術というのは……」
領主が話をそらそうとした瞬間、巫女は冷静に口を挟んだ。
「さきの飢饉と疫病で国が混乱したおり、ご領主さまが侍を率いて都に攻め入ったと聞き及んでおりますが」
「ん?」
その言葉に、領主の目が鋭く光る。
「どのような信条で、なさった事なのでしょうか」
巫女はあくまで冷静に、しかし力強く続けた。

