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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

千勢は、何事もなかったかのように、朝餉の給仕をしながら、楽しそうに 「ご主人様の枕元に<文學界>がございましたが、大学のご専攻も文学のご方面でいらっしゃいますか。」 と尋ねた。
「高等学校のころにロシア文学に興味を持ってね。大学はそちらのほうに進んだんだよ。あの文芸誌が目につくとは、千勢は、得意な幾何、代数だけでなく、文学にも関心があるのかな。」
「はい。表紙に川端康成先生のお名前が見えました。身を寄せていた先の叔母は、私が少しでも寂しくないようにと、<少女倶楽部>を取り寄せてくれていましたので、こちらに奉公に上ってからも購読していおります。その中で、数年前からよく川端先生の作品にも触れておりました。」

