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天狐あやかし秘譚
第30章 愛別離苦(あいべつりく)

私が叫んだとき、草介さんがホシガリ様に体当たりするかのようにぶつかっていっていた。その腹に、退魔の槍が突き刺さる。
「おやめ・・・ください・・・」
草介さんがホシガリ様に抱きつくようにして、声をあげる。
「左近次です・・・。覚えておりますか?・・・お鎮まりください・・・もう・・・あなたに、人を傷つけさせたくは・・・ないのです」
草介さんは左近次の名を出した。
それは、ほんの思いつきである苦し紛れの言葉だったのかもしれない。
しかし、その思いつきに過ぎない言葉は、一瞬の間だけ、ホシガリ様にかかった呪を緩めたのだ。ホシガリ様の瞳に、人間らしい理性の光が戻り、その意識が草介さんに向いた。
「さ・・・こん・・じ・・・?」
ぼろり、とホシガリ様の目から大粒の涙がこぼれた。それとともに、ズルリと、ホシガリ様にすがりついていた草介さんの腕が落ちた。
どうしよう!草介さんが死んじゃう!
そう思ったが、同時にこのチャンスしかない、とも思った。
私は渾身の力と想いを込めて声を張り上げる。
「あなた!あなたの望みは何!?本当に死ねれば満足なの?死ぬことが、あなたの本当にしたかったことなの!?」
ホシガリ様がゆっくりとこちらを向く。
その顔はかつてのあの美しい顔にもどっていた。
「貴様、余計なことを!」
圭介が私の口をふさごうと襲いかかってくる。しかし、ダリのほうが一瞬早かった。
「ぐふっ!」
草介さんがホシガリ様を押さえつけた瞬間、ダリはすでに退魔の槍を拾い上げ、私の方に向かっていたのだ。ダリが突き出した槍の石づきが圭介のみぞおちにめり込んでいた。その力に、圭介は白目を剥いて崩れ落ちた。
ホシガリ様が震えていた。力が抜けたのか、その手から退魔の槍が消えていた。槍が消えるとともに、草介さんの身体が崩れ落ちる。その身体の傷が不思議なことに消えていた。
ダリに支えられて、立ち上がった私は、彼女に近づいていった。
「私は浦原綾音、あなたといっしょにずっといた・・・。あなたの本当の望みは何?あなたはどうしたかったの?」
ホシガリ様の顔が変わる。いや、正確に言えば品々物之比礼(くさぐさのもののひれ)を使って、絶世の美貌を手に入れる前の、生まれもった顔に戻っていく。
「おやめ・・・ください・・・」
草介さんがホシガリ様に抱きつくようにして、声をあげる。
「左近次です・・・。覚えておりますか?・・・お鎮まりください・・・もう・・・あなたに、人を傷つけさせたくは・・・ないのです」
草介さんは左近次の名を出した。
それは、ほんの思いつきである苦し紛れの言葉だったのかもしれない。
しかし、その思いつきに過ぎない言葉は、一瞬の間だけ、ホシガリ様にかかった呪を緩めたのだ。ホシガリ様の瞳に、人間らしい理性の光が戻り、その意識が草介さんに向いた。
「さ・・・こん・・じ・・・?」
ぼろり、とホシガリ様の目から大粒の涙がこぼれた。それとともに、ズルリと、ホシガリ様にすがりついていた草介さんの腕が落ちた。
どうしよう!草介さんが死んじゃう!
そう思ったが、同時にこのチャンスしかない、とも思った。
私は渾身の力と想いを込めて声を張り上げる。
「あなた!あなたの望みは何!?本当に死ねれば満足なの?死ぬことが、あなたの本当にしたかったことなの!?」
ホシガリ様がゆっくりとこちらを向く。
その顔はかつてのあの美しい顔にもどっていた。
「貴様、余計なことを!」
圭介が私の口をふさごうと襲いかかってくる。しかし、ダリのほうが一瞬早かった。
「ぐふっ!」
草介さんがホシガリ様を押さえつけた瞬間、ダリはすでに退魔の槍を拾い上げ、私の方に向かっていたのだ。ダリが突き出した槍の石づきが圭介のみぞおちにめり込んでいた。その力に、圭介は白目を剥いて崩れ落ちた。
ホシガリ様が震えていた。力が抜けたのか、その手から退魔の槍が消えていた。槍が消えるとともに、草介さんの身体が崩れ落ちる。その身体の傷が不思議なことに消えていた。
ダリに支えられて、立ち上がった私は、彼女に近づいていった。
「私は浦原綾音、あなたといっしょにずっといた・・・。あなたの本当の望みは何?あなたはどうしたかったの?」
ホシガリ様の顔が変わる。いや、正確に言えば品々物之比礼(くさぐさのもののひれ)を使って、絶世の美貌を手に入れる前の、生まれもった顔に戻っていく。

