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天狐あやかし秘譚
第90章 末路窮途(まつろきゅうと)
キスくらいされても訳ないが、彼女の気が変わって、そのまま喉笛を噛み切られる可能性だってあるのだ。

万事休すか・・・っ!
クソ・・・土御門・・・さんっ!

俺がぎゅっと目を閉じた時・・・

「にゃあああ!!」

黒い何かが十和子の顔に踊りかかった。その一瞬、十和子が怯み、俺の手を拘束する力が緩む。その隙を見逃さなかった。

『木気・召雷一閃!』

素早く胸の木札を掴むと、それを媒介に、木気召雷法のひとつを発動する。木札からイカヅチが迸り、俺と十和子の間で炸裂した。

「ぐうっ!」
もちろん、至近距離での雷撃の爆発だ。俺自身にもダメージはあるが、こうでもしないと逃げ出すことなどできないと思った。
案の定、十和子はのけぞり、その一瞬で、俺は十和子の束縛を免れることができた。

「何だ!」
バシン、と顔に踊りかかった何かを十和子が払いのける。それは地面に叩きつけられ『ぎゃん!』と一声鳴くと、力なくぐったりと横たわる。

黒猫・・・猫神!?

ついで、十和子の身体を横薙ぎにするように、青白い光線のようなものが奔った。光線と思ったそれは水の鞭だった。

水・・・歳刑鞭・・・

「間に合いましたああ!!」
「ギリギリだったんじゃないですか?」

俺から見て、十和子を挟んで反対側、公園入口に近い街灯の下にその三人は立っていた。ひとりは九条水琉、ひとりは確か暦部門の田久保美玖、そして、最後の一人は日暮だった。

「田久保さんが運転うまくて助かりました!!・・・御九里さん!車で移動しているなんて・・・聞いてないですよ!!探すの、すっごく苦労したんですからね!!!」
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