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天狐あやかし秘譚
第90章 末路窮途(まつろきゅうと)
「やっても無駄だし・・・」
このときの俺は、軽い絶望を感じていた。
習得生寮に入っているのは、いわゆる代々の陰陽師の家系・・・その子息がほとんどだったのである。例えば、同期で筆頭と言われている九条水琉などはその典型だ。九条家は平安の時代から陰陽師の家系として存在し、多数の陰陽博士を排出している。彼はすでに式神を賜っており、その実力は折り紙付きだ。
その他も皆似たようなものだった。多かれ少なかれその血筋に、幼い頃からの教育に、特別なものを持っている人間ばかりだった。
それに比べて俺は、普通の人間が通っている学校にすら通っていなかった。
文字が読めるかも怪しいのだ。
「ふーん・・・」
土御門は一言、言うと黙って俺の外出許可を取り付けてきた。
「え・・・どこに行くんです?」
「あぁ・・・まあ、ついてこいや」
質問も許される雰囲気ではないまま、陰陽生の運転する黒尽くめの乗用車に押し込まれる。彼は運転する男に車を出すように言った。
車で数時間。夕日が沈みかけた頃に、ついたところは、地方都市にあるとある学校だった。ただ、校庭などは草が生えており、窓ガラスも何枚かは割れていて、内側から木の板で塞がれている。
どうやら、廃校のようだった。
「ここ有名な肝試しスポットやねん。まあ、単なる廃墟で無害っちゃ無害なわけよ。ただな、ここ1か月、ここに行って帰ってこーへん奴らが多発してん」
え?
そのつもりで学校を眺めてみると、確かに、背後に広がる田園風景とは異質な、なにか不気味な気配を感じる。空気が淀んでいるというか、ねっとりと肌に張り付くような感じ。そして、項のあたりにチリチリとまるで弱い電流を流されたような奇妙な感覚もある。
「感じとるな?・・・どっから入り込んだかわからへんけど・・・おるんよ・・・人に仇なすモノ・・・妖魅、モノノ怪の類が・・・」
夕暮れの学校の影が校庭に伸びてくる。
その陰から、何かが立ち上がっていった。
それは普通の人間には不可知の存在。闇に潜み、人を喰らう、人とは相容れないモノ・・・
「見えるか?・・・ああ・・・ありゃ、ゴンリョウや・・・」
その姿は、俺にはセーラー服を着た女子学生に見えた。肩につかないくらいのストレートヘア、俯いて立っている。季節は夏だというのに、その服装は冬服のそれだった。
このときの俺は、軽い絶望を感じていた。
習得生寮に入っているのは、いわゆる代々の陰陽師の家系・・・その子息がほとんどだったのである。例えば、同期で筆頭と言われている九条水琉などはその典型だ。九条家は平安の時代から陰陽師の家系として存在し、多数の陰陽博士を排出している。彼はすでに式神を賜っており、その実力は折り紙付きだ。
その他も皆似たようなものだった。多かれ少なかれその血筋に、幼い頃からの教育に、特別なものを持っている人間ばかりだった。
それに比べて俺は、普通の人間が通っている学校にすら通っていなかった。
文字が読めるかも怪しいのだ。
「ふーん・・・」
土御門は一言、言うと黙って俺の外出許可を取り付けてきた。
「え・・・どこに行くんです?」
「あぁ・・・まあ、ついてこいや」
質問も許される雰囲気ではないまま、陰陽生の運転する黒尽くめの乗用車に押し込まれる。彼は運転する男に車を出すように言った。
車で数時間。夕日が沈みかけた頃に、ついたところは、地方都市にあるとある学校だった。ただ、校庭などは草が生えており、窓ガラスも何枚かは割れていて、内側から木の板で塞がれている。
どうやら、廃校のようだった。
「ここ有名な肝試しスポットやねん。まあ、単なる廃墟で無害っちゃ無害なわけよ。ただな、ここ1か月、ここに行って帰ってこーへん奴らが多発してん」
え?
そのつもりで学校を眺めてみると、確かに、背後に広がる田園風景とは異質な、なにか不気味な気配を感じる。空気が淀んでいるというか、ねっとりと肌に張り付くような感じ。そして、項のあたりにチリチリとまるで弱い電流を流されたような奇妙な感覚もある。
「感じとるな?・・・どっから入り込んだかわからへんけど・・・おるんよ・・・人に仇なすモノ・・・妖魅、モノノ怪の類が・・・」
夕暮れの学校の影が校庭に伸びてくる。
その陰から、何かが立ち上がっていった。
それは普通の人間には不可知の存在。闇に潜み、人を喰らう、人とは相容れないモノ・・・
「見えるか?・・・ああ・・・ありゃ、ゴンリョウや・・・」
その姿は、俺にはセーラー服を着た女子学生に見えた。肩につかないくらいのストレートヘア、俯いて立っている。季節は夏だというのに、その服装は冬服のそれだった。

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