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第32章 ロングアイランドアイスティー



「割と好物件だと思うんだけど」

「ぶ、物件って」


 相馬のその真剣な目に、たじろぐ。

よくそんなに真っ直ぐに、自分のことアピールできるものだ。
人に好意を示せるものだ。こんな歳になって。
私は咄嗟にはぐらかしたり、曖昧にしたりしてしまいたくなるのに。



 もうやることやってしまった仲なのだから。流れで何となくそういうことになった、でいいのに。

「振るなら今振って」



 相馬がちらりと時計を見たので、つられて私も自分の腕時計を見た。

そろそろ、終電がなくなる。



「嫌ならちゃんと逃げて」

 こつん、とテーブルの下で、パンプスの爪先に何かが当たった感触がした。
きっと相馬の革靴。
体温が伝わるぐらい足を絡めたりはしない。

けれど、確かに彼がそこにいる。


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