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第32章 ロングアイランドアイスティー



「さっきも言ったけど、俺は一回霧野にはっきり振られてる」

 う、……それを言われると、

「あと、二、三回は泣かれてる」

「そ、それは」

「怪我もさせてるし」



 相馬の左手が伸びて、私の右手をそっと覆った。
その苦々しい顔は確かに演技ではなかった。



「……怪我なんて大層なものじゃ……」

 相馬の左手が僅かに動き、触れるか触れないかぐらい微かな力加減で、私の右手の甲を撫でる。



私が右手をグラスから離すと、相馬が、見ていい? と小さく聞いた。
両手を私の右手に添えて、カーディガンをゆっくり捲る。
私はただじっとしていた。

もうほとんど目に留まらないほど薄くなったあざの名残を、そのあざをつけた相馬の指が、丁寧になぞる。

あのときと違って怖くない。

手首の内側、皮膚が薄いところに彼が触れる。
敏感になっているのは、たぶんお酒のせい。

ぞわぞわとくすぐったさが伝染して、きゅ、と、関係ないはずの下腹部が締まった感覚がした。
じん、と体の芯が熱くなる。



「ん……そ、相馬、……っ」


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