この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ヒヤシンスの恋
第2章 薔薇の秘密

「…ミレイ。
何か僕に聞きたいことがあるんじゃないの?」
気がつくと、染布がキッチンのカウンターで菫の貌を覗き込んでいた。
「…染布先生…」
「尊文兄さんから、何か聞かされた?」
決して咎めるような口調ではなく、穏やかな声と表情。
「…染布先生の…恋人のお話を少し…。
お兄様は、染布先生を心配していらっしゃいました」
「…兄さん、僕の手の怪我は恋人のせいだ…て?」
さらりと告げられた言葉に、菫は息を呑む。
「…あの…いえ…」
言い淀む菫に、染布は優しく微笑んだ。
「いいんだよ。ミレイ。
兄さんはきっとミレイに言うと思っていた。
…多分、僕を見張って欲しいって頼んだんじゃない?」
「見張るなんてそんな…!」
慌てて首を振る。
「…お兄様は、ご心配されていました…」
…そう、尊文はただ、染布が心配なのだ。
あの言葉は全て、愛する弟への愛情に他ならない。
「…兄さんは誤解してる」
染布がその白絹のように美しい手を翳すように、ふわりと挙げた。
…とても怪我をしたようには見えない、美しい芸術的な手…。
「…僕の怪我は、あのひとのせいなんかじゃない…」
…あのひと…
その声のはっとするような切なくも熱を帯びた色に、菫の胸は微かに疼いた。
「…あのひと…」
「…そう…。
僕の恋人で、僕のピアノの教師だった…あのひと…」
…あのひとのせいじゃない…。
あれは…
仕方のない事故だったんだ…。
染布の美しい琥珀色の瞳が、何かを思い起こすようにゆっくりと瞬いた。
何か僕に聞きたいことがあるんじゃないの?」
気がつくと、染布がキッチンのカウンターで菫の貌を覗き込んでいた。
「…染布先生…」
「尊文兄さんから、何か聞かされた?」
決して咎めるような口調ではなく、穏やかな声と表情。
「…染布先生の…恋人のお話を少し…。
お兄様は、染布先生を心配していらっしゃいました」
「…兄さん、僕の手の怪我は恋人のせいだ…て?」
さらりと告げられた言葉に、菫は息を呑む。
「…あの…いえ…」
言い淀む菫に、染布は優しく微笑んだ。
「いいんだよ。ミレイ。
兄さんはきっとミレイに言うと思っていた。
…多分、僕を見張って欲しいって頼んだんじゃない?」
「見張るなんてそんな…!」
慌てて首を振る。
「…お兄様は、ご心配されていました…」
…そう、尊文はただ、染布が心配なのだ。
あの言葉は全て、愛する弟への愛情に他ならない。
「…兄さんは誤解してる」
染布がその白絹のように美しい手を翳すように、ふわりと挙げた。
…とても怪我をしたようには見えない、美しい芸術的な手…。
「…僕の怪我は、あのひとのせいなんかじゃない…」
…あのひと…
その声のはっとするような切なくも熱を帯びた色に、菫の胸は微かに疼いた。
「…あのひと…」
「…そう…。
僕の恋人で、僕のピアノの教師だった…あのひと…」
…あのひとのせいじゃない…。
あれは…
仕方のない事故だったんだ…。
染布の美しい琥珀色の瞳が、何かを思い起こすようにゆっくりと瞬いた。

