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千一夜
第44章 第七夜 訪問者 夢
「あのくず、落ちるところまで落ちた。人間、落ちるときは普通の速度では落ちていかない。一気に奈落の底に落ちてしまう。そうなった人間は暗い底から這い上がることはできない。たとえ這い上がろうとしても私が許さん、私にはその力がある」
咲子の父の目が私に向かってきた。
「……」
遠山機械工業を一代で作り上げた男遠山高獅。この男の歴史は正にドラマだ。
家老家の血を引く遠山家は、大正時代、地元に今でいうところの信用金庫を作った。都会と違い、田舎の生活は決して楽ではなかった。仕事がない、仕事をしたくてもその資金がない。
このままでは街が寂れてしまう。何もない街には誰も来ない。そしていつかそういう街はなくなる。このままではいけない。
遠山家は○○県で一番最初に信用金庫を創設した。いつの時代でも同じことが言える。経済を回すためには金が必要なのだ。
遠山高獅には五歳下の遠山高鶴という弟がいた。高獅も勉強はできたが、高鶴の成績は高獅を凌いだ。特に数学と物理はずば抜けていた。ところが、高獅にあって高鶴にないものが一つだけあった。それは健康。
高獅は勉強もできたが、運動することも得意であった。高校時代には柔道で県大会で優勝している。高鶴は高獅と同じ高校に進んだが、体が弱いせいで学校を休む日が多かった。その結果、高鶴は大学に進学することはできなかった。
当時、高獅はいつもこう言って高鶴を励ました。
「遠山家はお前にやる。俺は日本一の検事になる」
高獅は検事になるために東京の大学に進んだ。そして在学中に司法試験に合格したのだ。目指すは日本一の検事。ところが……。
司法試験に合格して司法修習所で学んでいる高獅に電報が届いた。
ー高鶴危篤ー
高獅は高鶴のところに急いで向かった。死に目に会うことできたが、高鶴は二十を迎えることなくこの世を去った。
高獅と高鶴の父遠山高景は、次男に鶴と言う漢字を与えた自分自身を何度も拳で殴った。高獅は高鶴の傍を離れることができず一晩中泣いた。
高獅は高鶴が病床でも勉強していた高鶴のノートを見た。高獅には正直それが何を意味しているのか分からなかった。だが、高獅には高鶴の声が聞こえたのだ。
「お兄さん、世の中の人々のためにこれを役立ててください。街のすべての人々が幸せでありますように」
高獅は何十冊もある高鶴のノートを抱えて泣いた。
咲子の父の目が私に向かってきた。
「……」
遠山機械工業を一代で作り上げた男遠山高獅。この男の歴史は正にドラマだ。
家老家の血を引く遠山家は、大正時代、地元に今でいうところの信用金庫を作った。都会と違い、田舎の生活は決して楽ではなかった。仕事がない、仕事をしたくてもその資金がない。
このままでは街が寂れてしまう。何もない街には誰も来ない。そしていつかそういう街はなくなる。このままではいけない。
遠山家は○○県で一番最初に信用金庫を創設した。いつの時代でも同じことが言える。経済を回すためには金が必要なのだ。
遠山高獅には五歳下の遠山高鶴という弟がいた。高獅も勉強はできたが、高鶴の成績は高獅を凌いだ。特に数学と物理はずば抜けていた。ところが、高獅にあって高鶴にないものが一つだけあった。それは健康。
高獅は勉強もできたが、運動することも得意であった。高校時代には柔道で県大会で優勝している。高鶴は高獅と同じ高校に進んだが、体が弱いせいで学校を休む日が多かった。その結果、高鶴は大学に進学することはできなかった。
当時、高獅はいつもこう言って高鶴を励ました。
「遠山家はお前にやる。俺は日本一の検事になる」
高獅は検事になるために東京の大学に進んだ。そして在学中に司法試験に合格したのだ。目指すは日本一の検事。ところが……。
司法試験に合格して司法修習所で学んでいる高獅に電報が届いた。
ー高鶴危篤ー
高獅は高鶴のところに急いで向かった。死に目に会うことできたが、高鶴は二十を迎えることなくこの世を去った。
高獅と高鶴の父遠山高景は、次男に鶴と言う漢字を与えた自分自身を何度も拳で殴った。高獅は高鶴の傍を離れることができず一晩中泣いた。
高獅は高鶴が病床でも勉強していた高鶴のノートを見た。高獅には正直それが何を意味しているのか分からなかった。だが、高獅には高鶴の声が聞こえたのだ。
「お兄さん、世の中の人々のためにこれを役立ててください。街のすべての人々が幸せでありますように」
高獅は何十冊もある高鶴のノートを抱えて泣いた。

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