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全部、夏のせい
第8章 暗雲〜東京、横浜、そして…
祖母は気楽な独り暮らしをしていたけれど、
よく母と一緒にお泊まりに来ていた、

そして、幼稚園から高校まで通った女子校の徒歩圏内で、
通学電車で痴漢に遭ったことを両親に言うと、
父が心配して平日は祖母の家から通学するようになったこともあって、私の部屋もいまだにそのままにしてくれていた。

フランスから持ち帰ったバーキンなんかも、
スーツケースに入れたまま、
こちらに持って来ていた。



念の為、呼び鈴を鳴らしてから、
鍵を開けて家に入ると、
いつもの優しい笑顔を浮かべて、
ゆったりとした美しいフランス語で、

「ようこそ、アラム?」と言った。


アラムが少し驚いた顔をした後、

「ああ。
マーサのお祖父様はフランス人と言ってたからか。
初めまして?
アラムと申します」と言って、
手の甲に優雅にキスをして挨拶を返していた。


「長旅で疲れたでしょう?
さあ、入って?
先にバスルームで手を洗ってくる?
真麻さんも、うがいと手洗いよ?」と、
最後の言葉は日本語で言って、
私に洗面所まで案内するように伝えた。


スーツケースは玄関に置いたままにして、
アラムにスリッパを出すと、
「どうぞ、こちらへ」と言って、
室内を案内した。


二人並んで、手を洗って、
「風邪予防になるから」と説明して、
リステリンでうがいをした。


そして、応接室に戻ると、
祖母は紅茶とアップルパイを出してくれる。


「真麻ちゃんから電話を貰ってから、
急いで焼いたのよ?」

切り分けると、温かい湯気がフワフワと立ち上るほど、
まだ熱々のアップルパイの香りで、
祖母と一緒にいる安心感を味わった。


これを食べたら…。

赤ちゃんのことを二人に言わなくては。

そう思っていた。
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