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それぞれの後編
第20章 サディスティック・マリッジ【あとがきのあと】
琉の端正な顔が歪められたのは唇を塞がれた苦しさではなく、愛里咲の脳裏に一瞬でも他の男が過ったから。

手にしていた漆黒の包みは床へと放り投げ、琉は愛里咲の両手をその頭上へと捻り上げる。

不機嫌に歪んだその顔を一気に寄せて、琉は愛里咲の唇を自身の唇で塞いだ。


「〜〜〜〜〜〜っ‼︎ 」

その垂れ目を大きく見開いて、愛里咲は驚いて後ずさる。

離してしまった琉の唇から視線が離せないけれど、昼休みとはいえ会社の廊下でキスはマズイ!

そう思うのに…

後ずさった拍子に壁に背中を付けた愛里咲を、逃さないとでも言いたげに琉の両手が囲い込む。

整った綺麗な顔が目の前に寄せられて、近過ぎる距離で大好きな香りに包まれる。ドキドキとその音を大きくする鼓動が耳に響いて、愛里咲はもう動くことが出来なくなっていた。


顔を真っ赤に染め上げて、琉を見つめたまま動けなくなった愛里咲。満足げに琉の口端が上がる。

その仕草が愛里咲を惹きつけるのだと、琉は知っているのだろうか。思わず噛み締めた愛里咲の唇に、琉の指がふわりと降りた。


「塞がれるんなら、愛里咲の手じゃなくてこっちがいいんだけど?」

唇にあった琉の指は愛里咲の顎をクイッと持ち上げて、あっという間にまた唇が重なる。

抵抗なんて言葉は頭の中から抜け落ちて、されるがまま。流されるままに愛里咲の唇が開いていく。

滑り込んできた琉の舌の熱さに益々溶かされて、鼻を抜けて溢れた甘い声は唇が離れる度に「もっと…」とせがむ。


(さすがにこれ以上はマズイか……)   

離れようとすれば追いかけて来る愛里咲の唇を舐め上げて、琉が一歩足を引けば、

カタン…

足元に転がる漆黒の包みに、愛里咲と琉の視線が向けられた。

「ひっ、ひぃぃぃっ!ごめんなさいーっ!」

途端に我に返った愛里咲は、包みも琉もそのままに、大慌てで走り去って行った。


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