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それぞれの後編
第20章 サディスティック・マリッジ【あとがきのあと】
このままロッカーに置いておくわけにいかない。ただでさえ誹謗中傷の貼り紙だらけのロッカーを、開ける度に更なる胃痛に襲われるのは嫌だ。

「……とりあえず、場所を移そう」

なにやら強い決意を秘めたような神妙な顔で、愛里咲が呟いたのは昼休み。今朝から数えて3度目に更衣室へと戻ってきた時だった。


省エネを謳う社内は、昼休みとなり人が減れば灯りも減らされる。

暗闇と言えるほどではないが、煌々と灯りが輝く時よりは行動がしやすい。 

愛里咲は、恐ろしい程のドス黒さを放つその包みを、わざと明るい色のタオルで隠し、コソコソとロッカールームを出た。


「あれ?」 

掛けられた声の主が誰なのかすぐに気付く。

佐藤から掛けられた声に驚き、愛里咲の身体は大きく跳ねた。

恐る恐る振り返れば、佐藤1人。いつも隣にいる琉の姿はなく、愛里咲はホッと一息吐き出した。


「お一人ですか?琉ちゃんは?」

「琉は社食にいるよ。俺は薬局行ってたんだ」

薬局。そう聞いた愛里咲は、

「どこか悪いんですか?」

悪気など微塵もない。単純に佐藤を心配して言った言葉。

だけど、恋人である根岸から事の全てを聞かされていた佐藤は、今だ痛む尻を押さえ顔を歪ませた。


「……っ!なんで!なんで琉は平気なの⁉︎ 」

「え?」

「愛里咲ちゃんと、いつもそういうプレイしてんの?」

「そういうプレイ?」

「琉は絶対ドSだと思ってたのに!ウケもやんの⁉︎ 俺は…っ…ノーマルなのに…!」


昨日、根岸にも渡された漆黒の包み。それを根岸がどうしたのか。根岸の恋人は佐藤であるというところに、愛里咲の思考はまだ追い付いていかない。

ウルウルと瞳いっぱい涙を溜めた佐藤を目の前で見て、愛里咲は慌ててタオルを差し出した。そう、漆黒の包みを隠していたタオル、を。


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