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ジャスミンの花は夜開く
第13章 再会
「えっ?そ、そんなことは…」


と言いかけたところで、隣のテーブルから「すみません」と声をかけられた。
これ以上ない助け舟に乗ることができ、茉莉花は心から安堵した。
あんな問われ方をされることは、つまり、全て分かっているという意思表示に違いない。


薄い個室の壁を一枚隔てた隣で、口淫に耽る女とそれを指示する男。
その男から「お前は知っているのだろう?」と言われたのに等しいのだ。
茉莉花は冷や汗をかくと同時に、デルタ地帯にも女の汗をうっすらとかき始めた。


そうしているうち『ご主人様』と『アイ』が食事を終えたようだ。
先輩から「5番テーブルさんにドリンクをお願い」と頼まれ、コーヒーとミルクティーをサーブにし、嫌々ながら、いや、なぜか興奮しながら歩みを進める茉莉花であった。
緊張から、トレイを持つ手が小刻みに震える。


「お、お待たせしました。食後のコーヒーと、ミ、ミルクティーでございます」
「ありがとう、お嬢さん。あっ、そうそう。ちょっとお手洗いまでいいですか?」
「は、はい?な、何か、ございましたか?」
「ええ。ちょっと。ねぇ、アイさん」


二人の会話にアイを引き入れる男。


「は、はい。女性トイレの個室の鍵の調子が悪いみたいなんです」
「それでしたら、店長を…」


男が受け取る。


「いや、そんなに大したことじゃないみたいなので、アイさん、お教えして差し上げて」
「え、ええ。そうさせてもらいますわ…。ちょっと付いてきていただけますか?」


女性の方が席を立った。
目で「付いてくるように」と茉莉花に語り、茉莉花は仕方なく後を追ってトイレに向かった。


しかし、トイレの個室の鍵はどれも正常に動く。
おかしい…と思った刹那、アイという女が口を開いた。


「あのね…」
「鍵はどれも大丈夫なようですが…」
「そうじゃないの…」
「は、はい?」
「さっき、トレイを落とされたでしょ?」


逃げ場のないところであのことを聞かれたのだ。
必死にかぶりを振って「な、なんのことですか?」と否定したものの、アイは言葉を続ける。


「そうよ、あれはね、縄の跡なの」
「わ、私は、な、何も、み、見てません!」
「いいのよ。別にあなたに何も危害を与えるつもりはないの。変に緊張しないで欲しかったから、『ご主人様』に『ちゃんと告白しなさい』って言われたの」
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