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第12章 絡まるストッキング6　　　　　　和哉と美冴2

　98　別れ際のキスの意味

「じゃあ、明日ね…」
　美冴さんはそう言って、なんと…

「あっ…」
　僕の唇に、軽くであるがキスをしてきたのである…

「明日ね…おやすみ…」
　そしてそう言って踵を返し、有無を云わさぬ感じで、サッとヒールを履き、逃げる様に玄関を出て行ったのだ。

　バタン…
　無常にもドアは閉まった。

　玄関には美冴さんの甘いムスク系の残り香が漂っていた…

　
『明日ね…おやすみ…』
　その時の僕の脳裏には、そんな美冴さんの優しい響きの言葉が巡っていた。

　そうだ、明日があったのだ…

　そして、その声の響きからは絶望的な感じは伝わってはこなかった。

　なんなんだ、あの別れ際のキスは？…

　なんの意味があるのか？…

　僕は閉じた玄関ドアを見つめながら、必死に考えを巡らせていく。

　さっきの別れ際のキスの意味は…

　なんだ…

　和解？…

　いや、そもそも美冴さんは怒ってはいなかった…
　そうなのだ、僕が美冴さんのストッキング脚に偶然触れてしまい、一気に想いを昂ぶらせ、欲情し、迫り、そして五年振りの熱いキスをし、あと一歩までこぎ着けた。
　
『今更わたしと…』
　と、まで云われて心に楔というストッパーを打ち込まれたのにも係わらず、雰囲気の流れで僕は、いや、美冴さんもかなり昂ぶっていたのだ。
　そして僕の手、キスからは拒否感という感情は全く感じなかったのである。

　だから決して僕に対して怒るという感情はなかったはずだ…

　じゃあ何なんだ…

　誤魔化しのキス…なのか。

　誤魔化し…

　何の、何を誤魔化すのか…

　僕は必死に想い返していく。

　あっ…

　そうか…

　ストッキングラブの昂ぶりからの美冴さん自身の興奮と欲情への誤魔化しなのか…
　だとすると、なんとなく合致がいく。

　本当は…

　本当は、美冴さんもその気になっていたんじゃないのか…

　それの誤魔化しの意味なのか…