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恍惚なる治療[改訂版]
第5章 彼の素顔

スプーンで掬って口に運ぶと、甘さ控え目のクリームとぶどうの甘酸っぱさがマッチして、スプーンが進む。
それ程甘くないので、飲んだ後のシメとしては丁度良いかもしれない。

「美味いですね」
「そうですね、来られて良かった…」

しみじみと噛み締める先生を見て、思わず笑いそうになってしまった。
本当にパフェ食べてみたかったんだな…

「……」
「どうしました?」

さくらんぼを摘んで口に放り込み、咀嚼しながら頬杖を突いて無言で俺を見つめてくる。
その瞳はしっとりと濡れているように見え、オニキスのように綺麗で引き込まれそうになる…

思わず目を逸らすと、喉を鳴らして口を開いた。

「自分の持っているちっぽけな理屈や価値観を全て覆し、全てを犠牲にしてでも本能で欲しくなる程に強く惹かれる相手が運命の人…」
「えっ?」
「学生時代、僕の友人が語っていた恋愛論です。まあ、彼自身恋多き男で女子を取っ替え引っ替えしてたので、あまり説得力が無くて聞き流してましたが…」




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