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異邦人の庭 〜secret garden〜
第15章 カーネーション・リリー・リリー・ローズ

こつこつとクラスタルの杖を鳴らしながら、徳子は再び紗耶の眼の前に立った。
ゲランのミツコがひんやりと薫る。
「…さて、いよいよ私が引導を渡すときがきたようね」
楽し気に笑う徳子は、懐から何かをすらりと取り出した。
手にしたものが冬の陽光にきらりと冷たく輝いた。
一同から響めきが立ち登る。
紫織が悲鳴を上げた。
「大お祖母様!」
「誰も動いてはなりませんよ」
低く、鋭い声が飛んだ。
徳子が手にしたものは、柄に煌めくエメラルドがふんだんに埋め込まれた…けれど眼にしただけで身が竦むようなビザンチン様式の鋭利な短剣だった。
徳子はさながら、美しい美術品を紹介するように語り始めた。
「…紗耶さん。この短剣はね、私がこの家に嫁いだ際に、御前のお母様より受け継いだ高遠本家代々の御台所に伝わる短剣なのですよ。
かつて高遠家には宿敵が多くてね。様々な陰謀に巻き込まれ、当主や御台所の命を狙われることも稀ではなかったのです。
…だから万が一、己れの身が穢されるようなことがあったとき、この短剣を使い、自害せよと…。
けれど私は、そんなことには使わなかったわ。
…私がこれを使ったのは一度だけ。
敗戦後間もなく、悪酔いしたGHQの高官が御前にこの屋敷を売るように迫ったことがあったの。
毅然と断る御前に、その高官は手を挙げようとしたわ。
そうして、私にも…。
…その時に、これを使ったのですよ」
…よく切れる短剣だったわ…。
徳子は光る刃を光に翳し、愉しげに見つめ、微笑った。
「…あんなに容易く、屈強なアメリカ人を殺めることができたなんてね…」
ゲランのミツコがひんやりと薫る。
「…さて、いよいよ私が引導を渡すときがきたようね」
楽し気に笑う徳子は、懐から何かをすらりと取り出した。
手にしたものが冬の陽光にきらりと冷たく輝いた。
一同から響めきが立ち登る。
紫織が悲鳴を上げた。
「大お祖母様!」
「誰も動いてはなりませんよ」
低く、鋭い声が飛んだ。
徳子が手にしたものは、柄に煌めくエメラルドがふんだんに埋め込まれた…けれど眼にしただけで身が竦むようなビザンチン様式の鋭利な短剣だった。
徳子はさながら、美しい美術品を紹介するように語り始めた。
「…紗耶さん。この短剣はね、私がこの家に嫁いだ際に、御前のお母様より受け継いだ高遠本家代々の御台所に伝わる短剣なのですよ。
かつて高遠家には宿敵が多くてね。様々な陰謀に巻き込まれ、当主や御台所の命を狙われることも稀ではなかったのです。
…だから万が一、己れの身が穢されるようなことがあったとき、この短剣を使い、自害せよと…。
けれど私は、そんなことには使わなかったわ。
…私がこれを使ったのは一度だけ。
敗戦後間もなく、悪酔いしたGHQの高官が御前にこの屋敷を売るように迫ったことがあったの。
毅然と断る御前に、その高官は手を挙げようとしたわ。
そうして、私にも…。
…その時に、これを使ったのですよ」
…よく切れる短剣だったわ…。
徳子は光る刃を光に翳し、愉しげに見つめ、微笑った。
「…あんなに容易く、屈強なアメリカ人を殺めることができたなんてね…」

